素材と造形思考 現代日本工芸展 図録、作家論から、
田仲康嗣論/ 冨田康子

 鍛金とは、一枚の金属板を叩き延ばしながら、意図する形に変形させていく技法技法である。それは、面的なものから生まれたことの必然として、〃皮膜状〃の構造を有している。また一方、造形の対象となる金属板を熔接によって次つぎ拡張できることから、〃無限〃 ともいい得る運動性を潜在させている。田仲康嗣は、前者に逆接し、また後者には順接することによって、これまでにない鍛金造形の一端を示しつつある作家である。 田仲による、この透かしだらけの不完全な球体群は、通常の真鍮板からつくられたものではない。熔かした真鍮をポタポタと下に垂らすと、このような不定形の真鍮片になるのだという。叩いてみると、既製の材料とは異なる変則的な曲面が生じる。そこに次の真鍮片を熔接しては、また叩く。この作業を繰り返していくとやがて未完の球体の連鎖による不思議な形状が現れるのである。「フラクタル・ボール」と名づけられたこれらの作品は、幾多の透かしの重なりを有し、あくまでも視覚的な意味においてではあるが、〃皮膜〃の比喩とは別種の、新しい鍛金造形の域に達しつつある。 なお、最近の田仲は、熔接ではなくロウ付けの技法を用いてパーツを接合する試みを始めている。線状の合痕が残る、一見すると継ぎはぎのような作品がそれである。この試みを通じて田仲は、鍛金造形における 〃無限性〃の意味をも問い直そうとしているかのようだ。2002.3.







inserted by FC2 system