松本晃 鍛金展 応力造形の直截性

奥野憲一  

 現代日本の金工は鍛金、鋳金、彫金の大きく三つのカテゴリーに分かれている。加熱して軟らかくした金属を金槌で叩いて成形する鍛金、溶けた金属を型に流し込む鋳金、これらの方法で成形されたかたちの表面に彫りなどの装飾を施す彫金といった具合である。
 更に鍛金は鎚起、絞り、変形絞りといった技法があり、鎚起は金床の上で金属を金槌で内側から打ち起こす技法、絞りは当て金の上の金属を外側から叩いて成形する技法、変形絞りは足のついた香炉などのより複雑な形を成形するために誕生したとされる。
 つまり、鍛金とは金属を加熱し金槌で叩いて成形することである、と一般的に認識されている。しかしそうなのだろうか。加熱し叩くということは金属に対しどういうことを意味しているのだろうか。
 それはたぶんこう言えるのだろう。金属に内在する反発力_応力(メタルストレス)を、外圧を加えることで矯めたり抑えたり逃がしたりすることで成形してゆく技法であると。そこで松本は、この応力を加熱したり叩いたりすることでなく、直截的に造形言語に転移させることを意志したといってよい。このことの必然性を確信する理路ともいえることが、応力の極めて強いステンレスを巻き上げていくという方法であった。ステンレスの帯金が一本でなく集積することによって立ち起こってくる金属の更なる緊張感、力強さは応力を直截かたちにする「鍛金」の新しい造形概念の発端といえる。
2002.11






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