「鍛金」のススメ

半年間 琉球新報に隔週で800字ほどの文章を書いていた。
先月末で無事穴を開けることなく終了。全部で13回。
隔週掲載という執筆ペースは思いの外きつかった。
書くということがなかなか習慣にならない間隔だからだ。
いっそのこと毎週締め切りがあればいいと思ったが、
それも実際そうなるとかなり精神的に厳しいだろうと思う。
何回か締め切りを忘れていたしね。
週刊誌や新聞連載をやっている作家は尋常じゃないと実感。
第1回目は「鍛金」について一般の人に理解できるようできるだけわかりやすく書いたつもり。




「鍛金」のススメ
 「鍛金」という言葉を知っているだろうか。聞いたこともない人の方が圧倒的に多いだろうと思う。
「たんきん」と読むこの言葉は金属工芸の技法の中で大きく分けた三つのうちの一つの分野のこと。

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クロボシセセリ

分かりやすくいうと「打ち物」鍛冶屋の仕事になる。棒や塊の鉄材を真っ赤に熱してたたいて成形するのが刀鍛冶などの鍛冶仕事いわゆる「鍛造」で、銀や銅、真鍮など板材をたたいて鍋や器などをつくるのが「打ち物」というように分けられる。金属工芸の技法は「鍛金」のほかに、「彫金」(彫りや錺り)や「鋳金」(いもの)いうのがある。
もともとは鍛金で作った壺などに彫金師が彫りや象嵌などのかざりをほどこす彫金の下職という位置づけであった。

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トガリチャバネセセリ

 私は大学の工芸科に進学した時にこの技法と出会った。
先輩達のつくる作品群が見せる金属の柔らかさや軽やかさに驚き、自分も金属で制作したいと思うようになった。
硬い金属が自由に形づくられていくところは、まるでスーパーマンのように思えた。
一見彫刻作品ではないかと思えるような巨大な作品に工芸的な繊細さが加わり金属というひとつの素材で作られたものに、「鍛金」の表現の幅の広さを感じたものだ。
工芸科のなかの講座なのに作品としてオブジェ的作品ばかりで、実用的な器物を作る人がほとんどいなかったのは今考えても可笑しいことではあったが。
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ウスキシロチョウ

 ところが大いなる可能性を感じつつも、硬くて重い金属はやはり硬くて重く、一筋縄では行かなかった。
それはまだ身体や頭が鍛金用に出来ていなかったから。
金槌を一振り一振り一日何千回何万回と振り下ろし、地道に仕事を進めていくことに慣れないうちは非常に困難で苦痛さえ伴う。
それを課題を通して身体に覚え込まされた。
道具作りや使い方、基礎的な技法の習得。
生来のせっかちさで先を急ぐとやり直しで二倍三倍と手間がかかってしまうことも多かったが、不思議と投げ出したくなったことはなかった。
きちんと段階を踏み作業を辛抱強く積み重ねていけば、出来不出来はともかく、自らが望む完成形へと近づいていくからだ。




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